こんにちは。Surface&Architecture ライターの大橋です。
S&Aでは、社内のナレッジシェアのためにインナーWSなどが定期的に行われます。そこで「仮想通貨」や「NFT」の話題となりました。私が美大生だった頃「これからクリエイターとして稼ぐなら、ブロックチェーンが必須だからちゃんと勉強しとけよ!」と教授から言われ、その時からずっと気になっていたこの分野。とくに最近話題となっている「NFT」や「NFTアート」とはなんなのか…。今回しっかりインプット、そしてNFTアート購入までを体験をしてみることにしました。『クリエイター目線でNFTを考える』というテーマで全4回にわけて私たちにとってのNFTの可能性を考えていきたいと思います。

クリエイター目線で「NFT」を考える  全4回

#01 NFTがもたらすもの(本記事)
#02 NFTってなに、やりながらわかってきたこと
#03 NFTアート購入の流れ
#04 やってみて実感したこと
初回である今回は、体験談の前に「クリエイターにとってNFTはどんな価値があるものなのか」「なにが新しいのか」についてリサーチ・考察していきます。NFTといえば、米アーティストのNFT化されたデジタルアートが75億円で落札されたり、Twitterの元CEOが自身の初ツイートをNFT付きで競売にかけ、3億円超の値がついたり…そんな浮世離れした金額のニュースを見かけると、どこか自分には関係のない話のように感じてしまいます。
ブロックチェーン活用のデジタルアート、75億円で落札(写真=ロイター)
Twitter CEOジャック・ドーシーの「最初のツイート」がNFTで競売に
しかしその流れは日本にも訪れ、小学生が夏休みの自由研究としてつくったNFTアートが高額で落札という夢のある話や、坂本龍一氏の「Merry Christmas Mr. Lawrence」がNFTとして発売されたことも話題となりました。また、GMOやLINEなどのプラットフォーム事業者や、講談社やKONAMIなど馴染みのある大手コンテンツメーカーも続々とNFT市場へ参入し始めています。
【NFT狂想曲】なぜ、小学3年生の夏休みの自由研究に380万円の価値がついたのか
坂本龍一氏による「Merry Christmas Mr. Lawrence」のメロディーを595音に分割した1音ずつのNFTとして「Adam byGMO」で発売。
2021年は「NFT元年」と呼ばれ、今年もその勢いは増していくと予想されていますが、このブームは一過性のものなのか、それとも私たちの日常生活、そしてクリエイターの仕事へ影響するものなのか。NFTやブロックチェーンに関する書籍や記事の内容を基に掘り下げていきます。※この分野のプロではないので、情報に不備などがあればコメントいただきたいです。

NFTとは

NFTとは、Non-Fungible Token(非代替性トークン)の略称です。
とさまざまな書籍やサイトに書いてありますが、「非代替性トークン」とはなんなのか…。ここでは一旦、クリエイター視点を主眼に置いて「自作のデジタルデータにつけられる唯一無二の証明書」と定義してみます。「トークン」が、なぜ「証明書」となるのか、NFTの詳しい定義については次回の記事で深堀する予定です。今回は、NFTが私たちにもたらすものに焦点を当てていきます。

世界にたったひとつの証明書が自分の作品につけられることで、

・デジタルデータの価値証明

・デジタルデータの所有と移転


を可能にします。具体的には何が変わるのか、何ができるようになるのか。楽曲データを例にしながら考えてみたいと思います。

①著作権管理

まずは、著作権の管理です。NFTの最も重要な特性は改ざんが困難であり、デジタルデータの唯一性と真偽性を証明できることです。つまり、コピーが出来ない仕様になっているのですが、注意が必要なのは、あくまで証明書のコピーが不可能であって、作品自体のコピーを防ぐ技術ではありません。証明書をつけることで「本物の作品」と「偽物の作品」を判断、そして管理を可能とする技術です。例えば、他の人が作成した楽曲データをコピーすることはできても、それをYouTubeへアップロードするとはじかれたり、他で利用することは出来なくなる、というような管理が実現するかもしれません。

②数量の制限

次にデジタルデータに「数量の制限」という概念がうまれることです。今まで、デジタルデータは、無限にコピーと配布が可能でしたが、証明書の発行数に応じてデータ数の制限ができるようになります。これにより楽曲の数量限定販売などが可能となり、データの希少性をもたせることで価格を上げることができます。
③プラットフォームの選択
デジタルデータの流通課題に、コンテンツがプラットフォームに依存しているケースが多いことが挙げられます。例えば、Apple Musicで聞いている音楽は、Spotifyでは聞けません。またサービスが終了すれば、それまで聴いてた楽曲は聞けなくなり、ファンとの繋がりは失われるかもしれません。つまりどれだけお金を払っても、Apple Musicで聴いている楽曲は、Apple Musicから「貸与」されている状態であり「所有」ではないのです。個人的には、Kindleが終了する日がくるかもしれないと思うとぞっとします…。
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サブスクや広告収益のプラットフォームはクリエイターにとっても便利な点が多いですが、その存続とコンテンツの存続が連動していることは、良い環境とは言えないのではないでしょうか。証明書付のデジタルデータは、プラットフォームに依存せず利用する方法となり得ます。また②の希少性の話にも繋がりますが、一般的に貸与と所有では、所有の方が価格設定を上げることができます。

④2次流通の収益還元

NFTの大きな特徴である2次流通についてです。現状でもプライマリーとセカンダリーは相互に関係し、作品の価値を上げていますが、セカンダリーの収益がクリエイターへ直接的に関係することはありませんでした。NFTは固有データとして移転が可能であり、同時に遷移が全て記録されるため、2次流通で発生した利益をクリエイターに還元することが可能となります。例えば楽曲を購入し、その後購入者が楽曲を商業イベントなどで利用した場合に、イベント収益の一部を作者へ還元することも出来るのではないでしょうか。

⑤売却

最後は、クリエイター目線より消費者目線に近いメリットです。デジタルデータは一度購入した後、売却することはできませんでしたが、データが固有性を持ち移転ができるようになれば売却が可能です。④の2次流通とも類似しますが、メルカリなどCtoCの売買が盛んな今の時代では、デジタルデータを売却できることは消費者にとってもクリエイターにとっても、コミュニケーションを増やす手段と考えられます。
以上の5つが、「クリエイターにとってのNFTの価値」、「NFTによって新しくできるようになること」として挙げられます。5つに共通して言えるのは、クリエイターと、作品の受け手である消費者とのコミュニケーションの選択肢が増やせることだと考えます。今まで管理しきることが不可能で、泣き寝入りするしかなかった著作権の問題も、プラットフォームによって決まる価格設定も、手を離れたあとの作品の行方も、クリエイター自身によって起こせるアクションが増えるかもしれません。アクションが増え、コミュニケーションが広がると、それに対応した表現の幅も広がる、NFTにはそんな期待感があるのではないでしょうか。

NFTと一緒に、考え続けたいこと

NFTについては「web3.0」と言われる文脈のなかでよく語られています。web3.0について興味がある方は以下の記事が分かりやすいと思います。
Web3.0解体新書 ~幕を開けるインターネットの新時代~
Web3.0を理解するために vol.1
これらの記事のなかにも書かれていますが、web3.0の重要な概念として「DAO*(自律分散型組織)」といわれる新しい組織の在り方が提示されています。これは例えば、プラットフォームを開発・提供する企業に対して、ユーザーがコンテンツや個人情報などを提供し、その見返りとしてサービスが継続するといった個人のデータや権利を企業に委ねる(管理される)ことにより成り立つ中央集権的エコシステムではなく、ユーザーひとりひとりが自身のデータに権限と所有権を持つことで自律し、相互に管理し合う分権的エコシステムを推進するものです。これにより企業のトップなど一部だけが管理・ルールメイキングするのではなく、個人も管理・ルールメーカー側として、組織そして社会を共創していくことが期待されています。
「web3.0」はクリエイターにとって、どんな時代となるでしょうか。私自身まだまだ勉強中であるため、なにか結論のようなものは持っていませんが、今回、NFTは「クリエイターと消費者とのコミュニケーションの選択肢を増やす」ものではないか、と紹介しました。「web3.0」という世界は、もっと幅広い範囲において個人の選択肢を増やすことを目指している印象があります。
私のような末端のクリエイターの仕事は、他の多くの仕事と同じく人、企業、システム、また規定や制限などあらゆる関係のなかで成立しています。その関係性のなかで個人が管理・ルールメーカー側になるとは、どんな状態になるのか…。ポジティブな面もネガティブな面もありそうですが、もしweb3.0やNFTなど新しいテクノロジーを取り入れるのであれば、できるだけ良い方向に進んでいきたい…。
そんなことを考えているときにポスト資本主義時代におけるブロックチェーンの役割などが書かれた参考書籍『ネクスト・シェア』にこんな文章がありました。
哲学者ジャック・デリダの謎めいた口癖に、「やがて来る民主主義」への言及があった。民主主義はけっして静的な、あるいは安定した条件ではありえないと彼は信じていた。なぜなら民主主義の最も基本的な約束事は、平等と多様性、自由と責任といった相反するもの同士の永久の緊張状態だからだ。私たちは民主主義を完全な意味で手に入れることはないだろう。相克するもの同士を繰り返し生活に練り込み、和解させようと試みながら民主主義をめざす努力の度合いだけが問題となる。
少し思想的な話になりましたが、ヒントになりそうな気がします。web3.0やNFTは最先端のテクノロジーの話でありながら、個人の選択肢を広げる=自由を広げるツールとなることを目指す民衆運動的側面も持ち合わせているように感じます。その実現のためには、「平等と多様性、自由と責任といった相反するもの同士」を和解させようと繰り返す努力、その緊張感のある状態と言われるものを私たちひとりひとりがつくっていく必要があるのかもしれません。これはとても大変なことだと思います。
今後4回にわたる「クリエイター目線でNFT考える」では、テクノロジーの進化と共に、テクノロジーによって私たち「人」がどう変わるのか、クリエイターの仕事やマインドにどのような影響があるのか、ないのか、など「人の進化」にも焦点を当てて考えていきたいと思います。
次回からは、実際にNFTアートを購入するまでの過程で得た知識や考察を書いていきます。

出典・注釈

今回、引用させていただいた主な書籍や記事はこちらです。 Web3.0解体新書 ~幕を開けるインターネットの新時代~
NFTバブルの先にあるものは? 真の価値「トークングラフ」という新概念
話題のNFTの全体像を事例とともに把握しよう〜市場を牽引するスタートアップの状況まで〜
Web3.0を理解するために Vol.2
NFTの教科書 ビジネス・ブロックチェーン・法律・会計まで デジタルデータが資産になる未来
ネクスト・シェア―ポスト資本主義を生み出す「協同」プラットフォーム
■注釈
*Decentralized Autonomous Organizationの略