こんにちは。journalでは新しいシリーズ「しくみをしくむ」が始まります。

仕組みをつくることは、道を増やすことに似ています。新しい道は、近道や抜け道、あえてしたくなる遠回りなど、私たちに新鮮な出会いをもたらします。また道によって街と街がつながるように、今まではなかった関係性を生む働きも持っています。

Surface&Architectureの仕事では、デザインや体験をつくる過程で「仕組みからつくる」場面が多く存在します。思考、行動、関係性を惹きおこす新しい道づくりには、まず構造を紐解くことが必要です。このシリーズは、Surface&Architectureのメンバーが気になった仕組みをリサーチ・考察し、みなさんの道づくりのヒントになればと思っています。

第1回目では、「めぐる」動きをつくっている仕組みを集めてみました。

めぐる仕組みの価値

日本の御伽噺のひとつである「わらしべ長者」は、モノをめぐらせることで思わぬ利益を得る物語で、ひとつのモノに対する価値はひとつではないことを教えてくれます。また、近代建築の三大巨匠、ミース・ファン・デル・ローエの「レス・イズ・モア(Less is More)」、少ないほど豊かである、という言葉にもあるように、ひとつのモノからより多くの価値を見出せることは、豊かである証です。そして今、再注目されているサーキュラーエコノミーなどの考え方でも、モノを消費していくだけの構造を変えていく必要性が示されています。

そんな「めぐる」をつくっている仕組みにはどんなものがあるのでしょうか。

【 d&RE WEAR 】

1つ目のめぐる仕組みは「d&RE WEAR(ディアンドリウェア)」です。ロングライフデザインを掲げるD&DEPARTMENTが2014年から続けている服の染め直しサービスで、シミや色あせなどで着られなくなってしまったお気に入りの服を、蘇らせるプロジェクトです。

この仕組みを成り立たせている重要な要素は、「トレンドカラー」と「ナンバリング」と考えます。染め直す色には毎回異なるトレンドカラーが使われ、また染める服には1着ずつ管理番号の刺繍が施されており、同じ番号はありません。糸からできるアクセサリーなどを手がけるブランドによってデザインされた管理番号の刺繍は、その服の素敵なアイデンティティとなるのです。

服の大きな特徴として、「トレンド」があり、流行りが過ぎた服はどうしても嫌厭されます。流行とともに大量に作られ、大量に破棄されてしまう服を、染め直すカラーでトレンドを保ち、自分だけの1点モノへとリメイクすることで、ひとつのモノを長くめぐらせる仕組みを実現しています。

【 book mansion 】

2つ目に紹介するのは、本棚を借りて自分の本屋が開ける、小さな本屋さんの集合体「book mansion」。本屋を本棚単位でシェア、また店番も交代制で運営もシェアし、共同で本屋営業をしています。全てをシェアすることで各人にかかる金銭的・時間的コストを分散し、気軽に自分の本屋を開くことを可能としているプラットフォームです。

本屋をシェアする仕組みのなかでも今回は、本への「愛着」や、持ち主・作り手の「ストーリー」を要素とした“本のリブランディング”の構造にフォーカスをあてて考察していきます。

古本屋に行けば本を買い取ってもらうことは容易です。しかし市場でのランクや、新品同様の状態かなどは、その本の一側面の評価でしかありません。自分で値付けし、自分でつくる売り場はオリジナリティがうまれ、本への愛着や背景への共感が購入のきっかけとなります。また通常の本屋では絶対しない、できない偶然がもたらす棚並びはbook mansionならではの化学変化を起こしていると思います。book mansionは、本が持つ付加価値を最大限引き出すことで、本をより良くめぐらすことのできる仕組みといえます。

【 未来食堂 】

最後は少し趣向を変えて、モノではなく“時間”をめぐらせる仕組みの紹介です。時間とは、誰もが平等に所有する唯一のものです。未来食堂では、客が店員として50分働くことで定食一食分のサービスを受けられる「まかない」システムがあります。また、まかないで得た一食分を他人に譲渡できる「ただめし」もあり、時間の価値を自分だけでなく、他者にもめぐらせることができる仕組みです。

未来食堂の仕組みの要素は、「独自貨幣」だと考えます。「50分の労働」という単位の貨幣を使い、店と客、また客と客とで特別な関係を成立させています。未来食堂の店内でしか使えない貨幣ですが、そのガラパコスの連帯感、仲間意識こそが、時間をめぐらせることを後押ししているのかもしれません。
今回は3つのめぐる仕組みを紹介しました。3つの共通点として、付加価値を生む「固有性」の発見にカラクリがあると考えます。既にあるものや場所に対し新たな価値を生み出そうとするときに、固有性に着目し、その固有性をどう高めていくかが、めぐる仕組みのポイントなのかもしれません。

次回は、「たもつ仕組み」の紹介と考察を予定しています。
また次回の記事でお会いしましょう!
参考記事: ・D&DEPARTMENT INC. スタッフの商品日記
https://www.d-department.com/category/TEXT_TOKYO/DD_TEXT_REPORT_27859.html?condition=TEXT_EDITOR:MD_DEPT_R
・READY FOR 吉祥寺に「本屋をシェアする文化」の発信基地を作りたい。
https://readyfor.jp/projects/x4
・未来をつくるSDGsマガジン『ブックマンション』がつくる、本と人の未来。
https://sotokoto-online.jp/3196
・空き家ゲートウェイ 無人古本屋の次なる挑戦、IT思考で組み立てた“シェアする本屋”(前編) https://akiya-gateway.com/blog/akiya-column/x4-01/
・未来食堂がつくる「誰でも受け入れ、誰にとってもふさわしい場所」
https://www.mugendai-web.jp/archives/7022