インタラクティブな展示

インタラクティブな展示物の制作途中、自分の前提が崩れてハッとしたことがある。その前提は、「訪れた人は触ってくれる」というもので、想像の中の「人」は、展示物の前を通り過ぎることはなく、なにやら興味津々に触ろうとしているのだった。展示に触れた後のことばかりを考えて、通り過ぎていってしまう人に「いかに興味を持ってもらい、触れてもらうか」ということがすっかり抜け落ちていた。

以前のエントリーで紹介したDesigning Gestural Interfacesの中では、展示物とユーザーの距離に従って空間を3つのゾーンに分けている。

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Attraction:最も遠いゾーン。展示物の大きなディスプレイ、音、外装デザインなどが興味を惹くきっかけになる。このシステムを使っている他のユーザの様子が興味をひくこともある。

Observation:中間のゾーン。展示や製品のディテイルをみることができる。このゾーンではインストラクションの案内版などが非常に重要な役割を果たす。他のユーザーのジェスチャー操作をみてシステムがどのように機能するのかを学ぶこともできる。

Interaction:最も近いゾーンで、実際に展示や製品の操作を行う。

こういったフレームワークがあれば、もう少しよいユーザエクスペリエンスが考えられたのかもしれないが、当時は上の3つのゾーンのうち、Interactionのゾーンのことだけが検討され、少し離れた領域のことは忘れ去られていた。

サンフランシスコのExploratorium の展示は、科学の単純な原理だけを使った、シンプルなインタラクションであるにもかかわらず、目を見張るように美しいものや、知的な好奇心をかき立てる素晴らしいものが本当に多い。このExploratoriumのプロジェクト、Fostering Active Prolonged Engagement書籍)=APEでは、Initial Engagement(=最初の興味喚起)の重要性が語られている。上の3つのゾーンで言うと、Interactionのゾーンだが、ここでも素早く美しさを感じられたり、楽しい経験ができなければ、それ以上の探索は打ち切られてしまう…このために、明確なスタートとゴールをもつような構造の展示ではなく、どこからでも開始できるようなオープンエンドな構造が有効であるとされている。また、長い時間楽しむには、いろいろなことが出来る必要があるが、たくさんのことができるように見えてしまうと、最初の時点でうんざりしてしまうこともある。長く楽しめて且つうんざりしない、このスウィートスポットを見つけることが重要なのだと。

APEにはこの他にもインタラクションデザインを考える上で大切な洞察がたくさんある。例えば、単純な操作や原理を素早く理解でき、いろいろと試してみたいことが次々と出てくる、そんな経験が長時間のアクティブな関与につながるということなどだ。これはとても大切なポイントで、システムと対話する方法が獲得しやすく、しかも、それを活用することでシステム側は豊かな反応を返す。このやり取りの豊かさが次のやり取りを生む。

インタラクティブな展示を考えて行くときは、人との距離の視点や、インタラクションのなかでのInitial Engagementが何なのか?をよく考える必要がある。やはり、他人は自分が思っている以上には興味をもってくれない、というのは本当なのだ。

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